木鉢会 美味しい蕎麦をお探しの方へ

よもやま話

一、鉢 二、のし 三、包丁

 これは蕎麦打ちの作業の要諦をゴロよく表した言葉です。同じ意味で「包丁三日、のし三ヶ月、木鉢三年」とも言われるように、蕎麦打ちの行程で一番大切な作業は最初に行う「木鉢」という行程です。(木鉢とは蕎麦粉と水を混ぜ合わせ馴染ませる技術)一見派手に見える包丁、のしは、以外と短時間で習得できますが地味な木鉢の技術は一生もので、蕎麦の良し悪しを決める急所として極めて難しい所です。
江戸流蕎麦打ちの手順ではこの木鉢の行程をさらに細かく「水回し(加水)」と「くくり(練り上げ)」に分けます。水回しは粉と水を一粒ずつ均等に結びつける作業で、力を加えすぎず素早く入念にかき混ぜ、くくりは水分を粉の内部に押し込み蕎麦粉の持つ粘りを引き出し、腰の立った麺帯を作ることが目的です。
木鉢という行程で使う道具・・「木鉢」はトチの木で作った朱色の漆塗りで、一般の老舗では現在直径約三尺の物を使用しております。

二八そばの由来

 「二八そば」の解釈を巡っては様々な議論がされておりますが、大別すると「二八、十六の語呂から一杯十六文」とする代価説と、そば粉八割に小麦粉二割で打った蕎麦を表す混合率説になります。どちらが正しいかという結論は未だに出ておりませんが、業界での通説は代価説のようです。私自身も本来の二八蕎麦の由来は代価説と思います。「二八そば」と言う言葉が初めて登場するのは享保年間1710年頃で「衣食住記」なる文献の中で「神田あたりにて二八即座けんどんと言う看板を出す」と言う、当時の屋台の話が載っており享保起源説の根拠となっております。

 当時「二八」は蕎麦だけでなくうどんにも使われ「二八うどん」なる物もあり、単純に混合率説を当てはめても説明が付かないうえ「一八そば」「二六そば」「三四そば」に至っては明らかに混合率説とは考えにくいと言うことが代価説の解釈であるようです。

物価を考えると享保年間は蕎麦一杯十六文しないのではと言う疑問が出て参りますが「二八即座けんどん」は従来の一杯きりの無愛想な商法に対して、愛想良くお替わり付きで十六文としたという記述が文献に見られます。
蕎麦の値段が二十文を超えるのは慶応年間頃ですから、「二八そば」の由来は代価説が正解と言うことになるのではないでしょうか。そうなれば「一八そば」は一杯八文。「二六そば」は十二文。「三四そば」も十二文。と言うようにすっきり理解できる訳です。
しかし慶応年間以降は代価説はそばの値段から無理がありこれを境に混合率説と解釈するのが時代を考えた理にかなったものと言えます。

そば屋の通し言葉

 お客様の注文を調理場に伝えることを「通す」注文品のことを「出し物」「通し物」と言います。通し言葉は、江戸っ子の機知から生み出された、解りやすい符丁で独特の用語が使われます。皆様方のご注文を通す声が聞こえてきませんでしょうか。覚えるまでには少々時間がかかるやも知れませんが、慣れて参りますと、一つ一つ通すよりも早くて便利になってくるものです。

■ つく
1個のことを指す言葉。「天つき3杯のかけ」は、天麩羅そば1杯にかけそば2杯の意味。「つき」のあとの杯数が注文の総数、後からいわれる出し物の数は注文の総数から「1」をひいて数えます。

■ まじり
2個の意味。「ざるまじり7枚もり」は、ざるが2枚にもり5枚のことを指します。ちなみに枚はせいろを数える単位、杯は種物を数える単位です。

■ かち
2種類以上の出し物が5個以上の奇数で注文されたときに使います。多い方の出し物を先にして「かち」を付けます。「鴨が勝って7杯のおかめ」は、鴨南蛮が4杯におかめが3杯となります。総数が偶数の場合は「と」が使われます。「鴨とおかめで8杯」は、それぞれ4杯ずつの意味です。

■ さくら
そばの量を普通より少な目に盛って出すことを言います。「もりお代わり、台はさくらで」と言えば2枚目は量を加減して盛ること。台とは蕎麦・うどんの様な出し物の本体の事。

■ きん
「さくら」とは反対の意味の通し言葉で蕎麦の量を少し増やして盛ることを言います。

■ おか
岡に上がるから連想されるように、種物の具をそばやうどんの上にのせないで、別の入れ物に盛って出すこと。「岡で天ぷら」と通されると天麩羅は独立した注文品として別盛りされます。

■ お声がかり
複数のご注文の中で後で出すものを指す。 「板わさに天せいろ、天せいろはお声がかりで」は、板わさをつまみ、食べ終わってから天せいろを出すという意味。

■ かんばん
通し言葉ではありませんが閉店時間を告げる言葉。

(C)Copyright 木鉢会. All Rights Reserved.